2003年度TDAテキスタイルスクール東京
テキスタイル加工編「特殊加工と表現」
■日時:12月20日(土

 

講師:藤原大
株式会社三宅デザイン事務所で、今、注目のブランド「A-poc」を展開されている、デザイナーの藤原大さんを呼んで、その歴史と活動、そして「A-poc」のブランド戦略、更には「A-pocって一体何?」と言うことまで豊富なスライドや実際の布を用いて語って頂いた。  シンプルな一枚の布を身につける、と言うことを現代的に解釈しようと言う考えで始まった「A-poc」だが、現在に至までには実に様々な苦労があったそうだ。例えば、コンセプトをはっきりさせる為に、身体の動き、一枚の布の可能性、そして、1本1本の糸がどのような動きをするのかを徹底的に解剖した、ということだ。「身体のラインをいかに美しく見せるか」、と言うことを追求するために、藤原さんが実に細かい分析をしてきたか、そして「A-poc」がいかに計算された服であるか、と言うことを私は認識することができた。しかし、私が思うに、「A-poc」の一番の強みは、藤原さん初め「A-poc」のスタッフ達が常に様々なことに興味を示し、また、決して諦めない探究心、そして向上心を併せ持っていることではないだろうか。  「A-pocって一体何?」、この究極の質問に藤原さんは「それは自分自身にもわからない。」と答えた。既成の服でありながら、着る人によって様々な表情を見せる「A-poc」の服たち。「今までのファッションという既成の概念の枠を打ち破るための“自由な服”というものを探し求める集団」、それが「A-poc」の正体ではないだろうか。


講師:藤原大


講師:井上勝博
今では三宅一生ブランドの代名詞にまで成長した「PLEATS PLEASE」。その人気ブランドのプリーツ加工を最先端の技術でサポートしている「井上プリーツ株式会社」から、取締役社長をされている井上勝博氏を講師に向かえ、プリーツの歴史から様々なプリーツの加工、そして井上プリーツのこれからの戦略についてスライド、およびビデオを交えて語って頂いた。  井上プリーツはもともと福井県の産元商社として営業していたが、昭和28年、アメリカから当時初めて日本に入ってきたアセテートの加工が失敗し、200反の(スカート5000着分)のクレームが出てしまったそうだ。その在庫を再生させるために、まだ日本では生産されていなかったプリーツ加工を一早く導入してその損害を免れ、その後、井上プリーツはプリーツ加工一筋の企業になったそうだ。まさに今企業に求められている「柔軟性」と「発想の転換」が功を奏した事例ではないか。そして、日本で初めてプリーツが誕生したときの起死回生の物語は、まさに「プロジェクトX」の世界である。  プリーツの歴史の中で特に面白かったのは、プリーツ加工された布がエジプト王朝時代からあり、また、ヒダというものが太陽の光を象徴し、それをまとう王が神と同一視されていた、というである。  現代では、ごく普通にファッションとしてプリーツ加工された服を人々は身に着けている。しかし、井上さんの話のようにその成り立ちに神聖な意味が込められていることを知っている者は恐らくほとんどいないだろう。  お店には棚から溢れんばかりに色とりどりの沢山の服が陳列され、どんな服でもお金さえあれば手に入れることができる。しかし、ファッションを無造作に楽しむ前に一度、そこに使われている生地や加工、あるいは柄の歴史や時代背景を学んでみてはどうだろうか。土曜日の午後にそんなことを思い描かせた井上さんの講演だった。
                      (リポート 中島良弘)


講師:井上勝博